絵を描くことと天気図を書くことは似ているかもしれない。

「「あ」」

2つの驚きが小さく店内に響いた。


―キミドリ色の世界


「さ、将来ちゃん、何、してるの?」

あたしは驚いて、慌てて、質問を投げ掛ける。

将来ちゃんが手に持っているのは、新聞1か月分ぐらいの量の紙。

「えへへ。見られちゃった」

と小さな子のように顔を赤くして、恥ずかしそうに答える。

「これねえ、全部、天気図なの。1日3回書くから、すぐになくなっちゃうんだ」

それにしても、その紙の量は異常だ。

あたしが絵の具を買うと大抵、バッグの中に納まる。しかし、将来ちゃんの場合は紙袋に入れても、紙の重さで紙袋が破けちゃうんじゃないかと思うぐらいで。

「こんなところで立ち話をするのもアレだから、店の外に出よっか?」

と将来ちゃんはそう言って、会計を済ませに行ってしまった。

…それにしても、いくらするんだろう?少なくても、あたしが画板を買う以上に高いんだろう。

「お待たせー。ごめんね、待たせて」

紙袋を抱えた将来ちゃんがあたしの元に戻ってきた。

外は秋風が吹いていて、少し肌寒かった。

店の近くのハンバーガーショップに2人で入って、注文して、椅子に腰掛けた。

何を言えば良いか分からないまま、あたしはオレンジジュースを、将来ちゃんはホットレモンティーを飲んだ。

レモンティーを一口飲み終えた将来ちゃんが話を切り出す。

「アタシのこと、どう思ってる?」

余りにも唐突な質問であたしは困惑した。

将来ちゃんはポテトを食べ始めながら、話を続けた。

「変なことを言っちゃって、ごめんね。でもね、アタシ、天気図を書くことが好きなんだ。だけど、最近、このことを人に言うのが厭になってきて…ね」

確かにあたしも将来ちゃんの趣味を聞いた時は「へぇー」とは思ったけど、お天気の話しをする時の将来ちゃんはとても楽しそうな表情をしている。

チーズハンバーガーを一口齧って、あたしは思ったことを言った。

「変じゃないよ。だって、将来ちゃんの天気予報すごくよく当たるもん!!この間、遠足に行くけど、テレビの天気予報が雨だって言ってるからって泣いてた梨愛ちゃんに、将来ちゃんが「絶対に晴れるから、大丈夫」って言ってたよね。で、そしたら、本当に晴れて、梨愛ちゃんがすごく喜んでたもん。「将来ちゃんの天気予報はテレビのオジサンよりも正確だね♪」って、あたしに話してくれたんだよ」

少し冷め始めたレモンティーを飲み、期間限定の月見ハンバーガーを将来ちゃんは食べ始めた。

あたしも一気に話しまくったせいか、喉が渇き始めたので、オレンジジュースを飲んだ。

「将来ちゃんは将来ちゃんなんだから、自分の好きなことに自信を持っても良いよ。あたしも絵を描いてて、スランプになるけど、やっぱ、絵が好きなんだなって思うもん」

アップルパイのパッケージを開けようとした時、将来ちゃんの右目から涙が落ちたのを見て、あたしは焦ってしまった。

「さ、将来ちゃん?!あたし、何か、悪いこと言った…?」

「違うの、違うの。そう言ってもらえて、すごくアタシ、嬉しくて…」

下手に何も言わないのが良いのかなと思って、あたしはアップルパイを齧りながら、将来ちゃんが落ち着くのを待った。

あたしがアップルパイを3分の2近く食べ終えた辺りで、将来ちゃんは幾分、落ち着いてきたみたいで、冷め切ったレモンティーを飲み干した。

「瑠巳佳ちゃん、ありがとね」

店の外に出ると、もう黒の絵の具が空を塗り始めたかのような空で、秋風が2人の頬を刺した。


「今日は偶然だったけど、瑠巳佳ちゃんに話を聞いてもらえて、アタシ、嬉しかった。」

寒さのせいか、頬が少し赤くなっている将来ちゃんがあたしに言った。

「あたしは何もしてないよー」

「うんうん、アタシ、大分、楽になった。今夜も天気図を書くよ♪」

笑顔の将来ちゃんがそこには居た。

「うん!それでこそ、将来ちゃんだよ!!」

つられて、あたしも笑顔になる。

「じゃあ、アタシ、そろそろバスの時間だから…またね。ばいばーい」

「気を付けてねー。ばいばーい」


空を見上げると、描きたくなるような星空で、思わず、にいちゃんに見せたくなるような感じで。




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